いろんな意味でしびれる一品

ひとつまみで汗が噴き出る。ひとつまみではないな。もはやひとかけらだ。

「風味が飛ばないように冷凍で。辛くなくなっちゃうから」

家なき子の俺にはこのオーダーはなかなか一番ハードルが高い。だからいつも全部使い切らないままどこか・・潜伏したどこかの冷凍庫で眠っている。

それを行く先々で発見しては、下を脳をシビレさせ、汗をふきふき。

ゆずこしょうと呼ばれるそれは、九州のいたるところで散見する。ゆずの皮とトウガラシ、塩を混ぜ合わせたものだ。

食べるラー油などより少し前に、ちょっとしたブームになったのでしっている人も多いだろう。というよりもはや定番の調味料のひとつだろうか。少しでも載せればすべてその味になってしまう一品だ。

結構、いろんなところで売られるようになったのと、その高級ブランドを手掛けている知人がいたので基本的には「売っている」ものだと思っていたが、どうやらもともとの発祥の九州各地では、それは各家で手造りするものらしいのだ。ぬか漬けみたいなものだね。

町、、いや村だね、、には「ゆずこしょう造り名人のばあさん」が必ずといっていいほどいて、みな時季がくるとそこにもらいに行くらしい。

ぬか漬けも、キムチもそうらしいが、だんだんみんなそういうことをしなくなっていて、やはりこのゆずこしょうも同じことのようだ。

「そのばあさん、最近亡くなってね。もうあの味はないのよ」

ぢゃ、なんでいうんだよって思うけど、その村人たちにとってはもはや忘れられない最高の味なんだろうね。となると、これは誰が?

「それは俺がつくった。あのばあさんほどではないけど、俺のもうまいよ」

そうなると、その”ばあさんこしょう”が気になってしょうがないが、それでも十分病みつきになる仕上がりだし、実際に「これすごい。いままで食べてたのがなんだったんだろうってレベル」と絶賛したところ、ことあるごとに送ってくれるようになったのだ。

常に手持ちの金もなく、家なき子な俺を心配し、いろいろなものを送ってくれた。家がないのにどこに?といえば、それは「牡蠣」と一緒に。

いま思えばその配慮自体が、このゆずこしょうの作者の指示ではなかったのだろうな、と思い当たる。

この配慮や心配り、、想いのあれやこれやが、ゆずこしょうのように混ざり合って、大量に、しかもちゃんと保存され、、その後、たくさんの人をしびれさせ、汗を噴出さすことになろうとは。

想いってヤツも、たとえ細かく細かく切り刻まれても、その風味を失わないわけだ。

2017-01-03

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